私たち井上醸造は、造りも小さく、一回に仕込む味噌の量は約800キロと 大手メーカーに比べるとごくわずかです。だからこそ、一つ一つの作業に心を配り、手をかけることができます。
味噌は、大豆・米・塩だけでできています。シンプルな原料だからこそ、ごまかしはききません。国産原料にこだわることはもちろんのこと、その処理工程こそが、醸造元の姿勢です。
第一章 私たちが徹底して麹造りにこだわるワケ。
〜機械にたよらない 麹蓋法(こうじぶたほう)〜
味噌造りは、昔から「一 こうじ、二 炊き、三 仕込み 」と言われるように、麹は味噌の“味や香り”を決める要であり、私たちは、米の洗い方からこだわります。
約2百`の原料米を全て浸漬桶で手洗いをし、蒸しの始まる翌朝、甑(こしき)に“抜け掛けで張り込んでいきます。“外側が硬く、内側は軟らかい”蒸米にする昔からの手作業です。
蒸しあがった蒸米をスコップで掘り出し、機械を使って冷やさず、蔵に広げて自然に冷まします。その日の気温、湿度にあわせ細心の注意を払い、粗熱を取り、蒸米水分を狙い通りに調節していきます。

次に約34度近くまで冷ました蒸米を、これ以上品温が下がらないように、山のように盛り上げてから、種麹が均一になるよう振りかけ、手もみで種付けをおこない、麹室の中の“床(とこ)”に引き込みます。
夜、床に引き込んだ麹米をもみほぐす“切返し”を行い、また布にくるみ保温、保湿し、次の朝まで待ちます。
翌朝、麹床に盛った麹米は40度をこえ、一粒一粒に白い点が見えはじめてきます。 これは、こうじの菌糸(破精)で、これが見え始めてくると盛んに発熱し出し、このまま床に盛っておくと、どんどん品温が上がってしまうので、今度は杉材で出来た平たい小さな箱“麹蓋”に小分けに盛り込みます。麹蓋を使いこうじを造るやり方を“麹蓋法”といいます。 盛り分けたぶん枚数がふえますが、その分、麹の熱と水分を発散させることが出来、とてもいいことなのです。しかし枚数が多い分とても管理に神経を使い、寝る暇がなくなります。
酒蔵でも大吟醸クラスとなるとこの麹蓋法でやる蔵がほとんどです。どうやら科学や機械の力ではどうしようもない部分が醸造の世界にはあるようです。

さて、この後、約36度で仲仕事と言って麹に“手入れ”をします。上下を積替えながら一枚一枚丁寧にかき混ぜて品温の上昇を抑えます。放っておくと、そのまま温度が上がってしまい、米の外側だけに菌糸が伸びてしまうので、ゆっくりと品温を上げていきます。
麹の菌糸を米の中心に入り込んでいくようにします。この後約39度になったらもう一度手入れをし、麹蓋いっぱいに模様を描くように大きく広げてやります。このころになると麹自体の発熱が室温を上回ります。最後は43度位まで品温が上がり、そのまま10時間近く40度以上の品温を持続させます。夜間、天窓を開閉し室温の乾湿差に気をつけ目的とする麹にしあげていきます。
仕込みの当日、朝6時になると栗香の高いふっくらと、まっ白い麹が造りだされていきます。出麹は、粗熱をとり、塩切りして、仕込みを迎えます。

井上醸造は全商品が全量麹蓋法による手造り麹。 約48時間朝から夜まで麹とつきあわないと、手造りの麹は出来ません。大変な作業ですが、味の決め手となる大切な要素は最大の技術と労力を払うべきというのが井上醸造の方針です。
第二章 みその個性を決める大豆の蒸煮(じょうしゃ)
〜醸造技術の原点 無圧蒸し〜 はこちら
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